○大田区基本構想
令和6年3月5日
議決
目次
序章
基本構想策定の背景と役割
第1章
基本理念(基本構想全体を貫く考え方)
第2章
将来像
第3章
基本目標(将来像を実現するためのまちの姿)
第4章
基本構想を実現するために
序章 基本構想策定の背景と役割
1 策定の背景
大田区は、昭和22年に当時の「大森区」と「蒲田区」が合併し、区名については対等な立場で両方から一字ずつを取って誕生しました。23区の中で最大の面積を有し、全国的に見ても大規模な自治体です。世界の主要都市とつながる羽田空港、区内の売上高・付加価値額の多くを創出する製造業をはじめとした国内有数の産業集積、にぎわいあふれる商店街、海辺や台地、多摩川など豊かな自然と美しいまちなみ、日本考古学発祥の地と呼ばれる大森貝塚との深いつながり、大正から昭和初期にかけて多くの文人や芸術家が暮らした、馬込文士村と称される馬込・山王地域などを有し、「東京の縮図」といわれる多くの魅力と可能性を持ったまちです。
大田区では、平成20年に基本構想を策定し、既に15年が経過しました。平成20年から令和4年の間に、区の総人口は約67万人から約73万人に増えました。その一方で、年齢構成比を見ると、65歳以上の割合は20.1%から22.6%に増加し、15歳未満の年少人口の割合は、転出超過もあいまって11.4%から10.6%に減少しています。
また、地球温暖化などに伴う気候変動により、区の平均気温は平成20年の16.2℃から令和4年の16.9℃へと上昇し、1時間の降水量が50mmを超えるような豪雨の発生件数も増加傾向にあります。令和元年の台風19号では、上流域への記録的な降雨の影響により、多摩川の水位が大幅に上昇し、大田区にも甚大な被害をもたらしました。
そして、近年の新型コロナウイルス感染症の流行は、マスクの着用や過去に例を見ない行動制限など、人々の生活様式や働き方に大きな影響を与えました。一方で、対面での接触を避けるため、オンライン会議やキャッシュレス決済が浸透するなど、デジタル技術の活用がより一層進んだという一面もありました。
まちづくりについては、区の40年来の悲願である新空港線の整備に向け、令和4年に整備に関する都区間合意に至ったことで、羽田空港を含む区内外の移動利便性を向上させ、鉄道沿線のまちづくりに着実に取り組むための扉を開くことができました。また、令和5年には、SDGsに関する先進的な取組を行う自治体として「SDGs未来都市」に選定されるなど、誰一人取り残さない持続可能なまちの実現に向けた歩みを進めています。
区を取り巻く社会情勢は刻々と変化しています。今後、更なる進行が見込まれる少子高齢化や、地球温暖化に伴う自然災害の激甚化・生態系の変化、情報通信技術の加速度的な進展や不透明さを増す国際情勢など、様々な要因が複雑に絡みあうことで将来を見通すことが難しくなり、不確実性は増していくことが見込まれます。
このような状況を踏まえ、大田区に関わるすべての人々と今後のまちづくりの方向性を共有し、ともに魅力的な大田区をつくり上げていくため、新たな基本構想を策定いたします。
2 基本構想の役割
基本構想の役割
基本構想は、2040年ごろ(令和22年ごろ)の大田区のめざすべき将来像を提示し、今後のまちづくりの方向性を明らかにした、区の最上位の指針です。
大田区に関わるすべての人々の共通の目標として、この基本構想を策定します。
基本理念、将来像、基本目標の関係について
「基本理念」とは、基本構想全体を貫き、「将来像」や「基本目標」を実現していく上での基本的な考え方です。
そして、「将来像」を実現するためのまちの姿として、4つの「基本目標」を定めています。
第1章 基本理念(基本構想全体を貫く考え方)
基本理念とは、基本構想全体を貫く考え方です。平和で、人権が尊重される社会を前提とし、大田区に関わるすべての人々に共通する考え方として、以下の基本理念を掲げます。
1 地域力を高める
地域のつながりを強化することは、防犯・防災対策、安心して子育てできる環境づくり、暮らしの活力の創出など、多様な分野の課題解決につながります。区民一人ひとりの力を源として魅力ある地域を創造していく「地域力」をより一層高め、区民、企業、地域団体や行政など、組織や世代を越えて大田区に関わるすべての主体が連携・協働することにより、安心して暮らせるあたたかいまちをつくります。
2 多様な個性が輝く
一人ひとりがお互いの個性を尊重し、支えあうことで、それぞれの力が発揮され、新たな価値観の発見や可能性の創造につながります。ありのままの自分で生きることができ、多様な個性がそれぞれの持ち味を活かすことにより、誰もが自分らしく活躍できるまちをつくります。
3 豊かなまちを未来へつなげる
区の歴史や文化を引き継ぎ、未来にわたって持続的な発展をしていくためには、先を見据えながら、変化の激しい時代にしなやかに対応することが重要です。区の特徴を踏まえ、長期的な視点を持って、柔軟かつ利便性の高いまちづくりを進めることにより、誰もが豊かに暮らし続けることができるまちを次世代に引き継ぎます。
第2章 将来像
2040年ごろ(令和22年ごろ)の大田区のあるべき姿として、以下の将来像を掲げます。

これまで築いてきた地域のつながりを大切にし、暮らす人・働く人・学ぶ人・訪れる人の誰もが、安心して心穏やかな日々を送ることができるまちをつくります。
また、こどもから大人まで、誰もが夢や希望をもち、未来を切り拓くことができる活力あるまちをつくります。
日々のやすらぎと未来への希望により、笑顔があふれるまちの実現をめざし、「心やすらぎ 未来へはばたく 笑顔のまち 大田区」を将来像として掲げます。
第3章 基本目標(将来像を実現するためのまちの姿)
1 未来を創り出すこどもたちが夢と希望をもって健やかに育つまち
こどもたちが、よりよい未来を創り出す力をもち、笑顔で元気に育つことが、大田区の明るい未来へとつながります。
また、こどもたちが豊かな愛情に包まれ、自分らしく成長することにより、まちは思いやりと活気に満ちあふれます。
明るく活力のある社会を築くためにも、こどもたちが夢と希望をもって健やかに育つまちをめざします。
● こどもの権利が守られ、こどもたちが将来に希望をもって育っています。
● こどもたちが安全・安心で自分らしく過ごせる居場所や楽しくのびのびと遊ぶ場所が充実しています。
● こどもたちをあたたかいまなざしで包み、こどもの声に耳を傾けながら、地域全体で子育ち・子育てを支えています。
● 希望する誰もが、安心してこどもを産み、育てることができ、こどもたちが愛情を注がれて健やかに成長しています。
● 世界の人々と積極的に関わりながら、よりよい未来を創り出す人財が育っています。
● 一人ひとりに寄り添う学びにより、すべてのこどもが自分らしく輝いています。
2 文化を伝え育み誰もが笑顔でいきいき暮らすまち
心と体どちらも健康でいることは、いつまでも充実感のある毎日を過ごすことにつながります。
そのためには、文化や芸術といった、心を豊かにしてくれるものとふれあい、それらを伝え育むことで、笑顔あふれる暮らしを送ることが大切です。
また、すべての人々に活躍の場があり、つながりあえることで、元気に暮らせる社会をつくることも重要となります。
こどもから高齢者まで、障がいの有無や、性別、国籍などにかかわらず、個性をお互いに認めあいながら、生涯にわたり、誰もが笑顔でいきいき暮らすまちをめざします。
● 一人ひとりに、社会の中での役割や生きがいがあり、誰もが自分らしい暮らしを送っています。
● 社会全体で包み込むように支えあう考え方が日常に溶け込み、つながりを感じるあたたかさあふれるまちになっています。
● 言語や慣習をはじめ、属性の異なる人々がお互いを尊重しあい、笑顔で自然に交流しています。
● 気軽にスポーツを楽しみ、健康づくりに取り組むことで、生涯にわたっていきいきとした生活を送っています。
● 多彩な文化や芸術、歴史や伝統が暮らしとともにあることで、心が潤い、豊かな感性が育まれています。
● 自由に学びを深められることで、質が高く心地よい暮らしを送ることができています。
3 豊かな環境と産業の活力で持続的に発展するまち
環境は、経済・社会などわたしたちの暮らしの基盤です。地域社会のすべての主体が環境に配慮した行動をともに起こし、将来の世代によりよい形で引き継いでいくことが大切です。
そして、環境が守られた上で、国内有数の産業集積の維持・発展と新産業の創造を通じ、産業が持続的に成長することが、区の活力を将来にわたって高めていくことにつながります。
一人ひとりに環境への意識が浸透して具体的な行動につながるとともに、多様な産業がたえまなく成長することで、持続的に発展するまちをめざします。
● 自分の行動が未来の環境を大きく左右するという意識を持ち、環境に配慮した行動を実践しています。
● 次世代クリーンエネルギーや新技術の活用を含む脱炭素への積極的な行動により、カーボンニュートラルの実現に向けた歩みを着実に進めています。
● 資源を無駄なく利用する意識が浸透し、循環型社会が形成されています。
● 区内企業が社会環境の変化に柔軟に対応することにより、生産性の向上や産業集積の維持・発展につながっています。
● 誰もが新たにチャレンジできる環境で、業種の垣根を越えたより一体的な協力関係の形成により、新たな産業やサービスが生み出され、区内企業の「稼ぐ力」が向上しています。
● 磨き上げられた「大田区ブランド」が世界の人々を魅了し、多くの人が訪れることで、にぎわいや経済の活性化につながっています。
4 安全・安心で活気とやすらぎのある快適なまち
安全なだけではなく安心であり、日々の生活を心穏やかに快適に過ごせることは、誰もが住み続けたいと思えるまちの実現につながります。
また、23区で唯一空港を有している強みをはじめ、様々な地域の特色をまちの活力につなげていくことも重要です。
都市の強靱化を進めるとともに、多様な地域特性を踏まえて、活気とやすらぎのある快適なまちをめざします。
● 強靱な都市基盤の整備と地域の連携の強化により、心から安心できるまちになっています。
● 利便性の高い交通ネットワークの整備により、誰もがどこへでも気軽に移動できるようになっています。
● 鉄道沿線から広がる活気あるまちづくりや、空港を持つ強みを活かしたまちづくりを通じてにぎわいと交流が生み出されています。
● 安心で快適な住環境の整備により、ずっと住み続けたいまちになっています。
● 地域の特性を活かした、多様な特色を持つ公園が充実しています。
● 身近な場所でふれあえる水やみどりがあり、やすらぎを感じられるまちになっています。
第4章 基本構想を実現するために
基本構想を着実に実現するために、区の方針を以下のとおり掲げます。
1 基本計画の策定
基本構想で描いた将来像を実現するためには、その道のりを未来から現在へさかのぼり、戦略的に政策体系を整理した基本計画を策定し、着実かつしなやかに推進することが重要です。
基本構想の目標年次である2040年ごろ(令和22年ごろ)だけでなく、2030年SDGsの達成や2050年脱炭素社会の実現といった、他の重要な目標の達成年次や社会情勢等を踏まえた上で、戦略的に政策を展開します。
また、計画の進捗状況について評価・分析を行うとともに、社会情勢の変化等に応じて適時見直しを行うことで、不確実性の高い時代においても、基本構想の実現に向けた取組を着実に進めていきます。
2 持続可能な自治体経営
区を取り巻く社会経済状況が変化する中においても、基本構想で描いた将来像を実現するためには、将来にわたり区政の持続可能性を確保することが重要です。
その実現に向け、人材・財源などの区が有する経営資源の最適化や、デジタル技術を用いた業務の抜本的な変革など、生産性向上に資する取組をまとめた具体的な戦略を策定し、実践します。
3 区民や地域団体、企業との連携・協働
基本構想で描いた将来像を実現するためには、大田区に関わるすべての人々が力を合わせてともに取り組んでいくことが重要です。そのため、様々な機会や手段を通じて、迅速かつ着実に情報発信を行うとともに、区民の様々な声を大切にし、区政への区民の主体的な参画を推進します。
さらに、自治会・町会、企業、団体・NPO及び学術機関等の様々な主体による連携・協働を一層推進し、多様化する地域課題に迅速に対応します。
また、企業等と行政のそれぞれが持つ強みを活かし、新たな価値を創出するとともに、区民・企業等・行政の真の「三方良し」を実現します。
4 シティプロモーションの強化
基本構想で描いた将来像を実現するためには、住む場所・働く場所・学ぶ場所・訪れる場所として選ばれ、まちの活力を維持・向上させていくことが重要です。そのため、多様な魅力や地域資源を踏まえた戦略的なプロモーションにより、区の認知度やブランドイメージを向上させます。
また、大田区での暮らしに愛着や誇りを持てるよう、区民に対しても積極的に区の魅力を伝えていきます。
5 職員一人ひとりの意識・資質の向上
基本構想で描いた将来像を実現するためには、職員一人ひとりが、自ら考え、行動することが重要です。
社会変化や技術革新の動向も見据え、職員は、区政を担うプロフェッショナルとして職務に取り組むとともに、常に区民目線に立ち、丁寧かつスピード感を持って対応していくことが求められます。
新たな知識や技能の習得だけでなく、幅広い視野や経営的な感覚を持ち、多様化する行政課題への迅速・的確な対応に向けた専門性の向上を図ることで、区民サービスの質の向上につなげていきます。