○笛吹市障がい者基本条例
令和6年3月26日
条例第2号
目次
前文
第1章 総則(第1条―第8条)
第2章 障がい理解の啓発(第9条)
第3章 障がいを理由とする差別の解消(第10条―第13条)
第4章 障がいのある人に対する虐待の禁止(第14条・第15条)
第5章 情報保障及びコミュニケーションに関する合理的配慮(第16条―第18条)
第6章 生涯にわたる障がいのある人への支援体制の整備(第19条)
第7章 補則(第20条)
附則
障がい者にとって優しいまちは、誰にとっても優しいまちである。誰もが安心していきいきと暮らすことができる地域共生社会の実現のためには、市民、事業者及び行政が協働して施策を実施する必要がある。地域で障がいのある人とない人が共生するためには、障がいのある人が「障害」と感じるような社会的障壁を取り除く必要があり、これは、障害者基本法(昭和45年法律第84号)及び障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号)の理念によるところである。
加えて、障がい者が施策の実現に参画するためには、情報保障は必須であり、行政は、様々な障がい特性に応じた情報保障の手段を講ずる責務を有する。また、手話は、平成18年に国際連合で採択された障害者権利条約において、「手話=言語」であることが明記され、障害者基本法においても手話は言語であることが認められている。手話の普及及び理解を促進するためには、誰もが幼少期から手話をコミュニケーション手段の一つとして認識する必要がある。障がいの有無や障がい種別にかかわらず、全ての人が地域で安心して暮らすことができる社会を目指すためには、手話のみならず、障がい者の特性に応じた意思疎通の手段を保障することが必要不可欠である。
こうした状況を踏まえ、障がいのある人の自立及び社会参加を促進し、全ての市民が障がいの有無にかかわらず、基本的人権を享有する個人として尊重され、互いにその人格と個性を尊重し合いながら共生する地域社会を実現するため、その基礎となる理念や原則を明らかにした基本的な規範として、この条例を制定する。
第1章 総則
(目的)
第1条 この条例は、障がいについての理解(以下「障がい理解」という。)を深め、差別のない人権尊重の地域社会づくりを実現するため、基本理念及び施策の基本的事項を定め、総合的かつ計画的に推進することにより、もって障がいのある人が地域社会を構成する一員として地域におけるあらゆる分野の活動に参画できる地域共生社会を実現することを目的とする。
(1) 障がいのある人 身体障がい、知的障がい、精神障がい(発達障がいを含む。)その他の心身の機能の障がい(以下「障がい」と総称する。)がある者であって、障がい及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。
(2) 市民 障がいの有無や年齢にかかわらず、市内に居住し、通勤し、通学し、又は市内で活動する全ての人をいう。
(3) 事業者 市内において営利又は非営利の事業活動を行う全ての個人、法人及びその他の団体をいう。
(4) 障害福祉サービス提供事業者 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成17年法律第123号)第5条で規定する障害福祉サービスを提供する事業者をいう。
(5) 地域社会 障がいのある人が生活の場とする身近な地域での人々から成る集合体のことをいう。
(6) 地域共生社会 全ての市民が、障がいの有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら、身近な地域で共に生きることができる社会のことをいう。
(7) 社会的障壁 障がいのある人にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。
(8) 合理的配慮 障がいのある人が、現に社会的障壁の除去を必要としていることが認識できる場合において、当該障がいのある人が障がいのない人と同等に権利を行使することができるようにするため、その実施が社会通念上相当と認められる範囲を超えた過重な負担とならない程度で、当該障がいのある人の意向を尊重しながら、その性別、年齢及び障がいの状態に応じて、必要かつ適切な現状の変更、調整等の措置を行うことをいう。
(9) 障がいのある人に対する虐待 障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律(平成23年法律第79号)第2条第2項に規定する障害者虐待をいう。
(10) 情報保障 障がいのある人が必要な情報を取得し、利用し、又は自ら発信することができる機会を確保することをいう。
(11) コミュニケーション 日常生活又は社会生活を営む上で必要となる、人と人との間で行われる情報、知覚、感情、思考及び意思の伝達並びに交流をいう。
(12) コミュニケーション手段 手話、要約筆記等の文字の表示、点字、音訳、朗読、代読、代筆、平易な表現、ふりがな表示、絵図、代用音声(咽頭摘出等により使用するものをいう。)、意思伝達装置、電子計算機等の情報通信機器その他日常生活又は社会生活を営む上で必要となるコミュニケーションの補助的及び代替的な手段としての情報並びにコミュニケーションの用に供するものをいう。
(13) コミュニケーション支援従事者 手話通訳者、要約筆記者、失語症者向け意思疎通支援者、代読又は代筆を行う者、朗読者、ガイドヘルパー等障がいのある人へのコミュニケーションの補助を行う者をいう。
(基本理念)
第3条 地域共生社会づくりの実現のための施策は、次に掲げる理念にのっとり行わなければならない。
(1) 全ての市民が、障がいの有無にかかわらず、その個人としての尊厳が重んぜられ、個人としての能力を発揮する機会が確保されること。
(2) 障がいのある人の自立及び社会参加の支援に関する施策の推進に当たっては、個人の自己決定が尊重されること。
(3) 障がいのある人が、障がいを理由とする差別的取扱いを受けないこと。
(4) 全ての市民が、障がいの有無にかかわらず、社会の対等な構成員として、市における政策又は事業者における方針の立案及び決定にともに参画する機会を確保されること。
(5) 全ての市民が、障がい及び障がいのある人に関する理解を深め、互いの意思を尊重すること。
(6) 障がいのある人が、情報の取得及び利用並びに他者との意思疎通を図ることができ、その手段について選択することができること。
(市の責務)
第4条 市は、前条に定める基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、市の特性に応じた障がい福祉の推進に関する施策を定め、これを総合的かつ計画的に実施しなければならない。
2 市は、市民及び事業者に対し、基本理念に対する市民の理解を深めるため、障がい理解に関する取組を行わなければならない。
3 市は、障がい福祉の推進に当たり、障がいのある人及びその家族並びに関係団体等の意見を尊重しなければならない。
4 市は、障がい福祉の推進に当たり、市民及び事業者のほか、国、県及び他の地方公共団体と連携し、協力しなければならない。
(市民の責務)
第5条 市民は、基本理念にのっとり、障がい理解を深めるとともに、市が実施する施策及び市民自ら企画する障がい理解を推進する活動に積極的に参画し、協力するよう努めなければならない。
2 社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明のため、障がいのある人である市民は、障がいのない人である市民に自らの障がい特性について理解してもらえるよう努めなくてはならない。
(事業者の責務)
第6条 事業者は、基本理念にのっとり、事業を行うに当たっては、障がい理解を深めるとともに、市が実施する取組及び施策に協力するよう努めなければならない。
2 事業者は、障がい福祉に関する法令を遵守し、その雇用する者に対し障がい理解に関する啓発を行うとともに、障がいのある人と障がいのない人が共生できる職場環境づくりに努めなければならない。
(政策立案過程及び意思決定の場への参画の機会の確保)
第7条 市は、政策の企画、立案及び決定において、障がいのある人が協働して参画する機会を確保しなければならない。
2 市は、施策の策定及び実施に当たっては、障がい福祉の推進の視点を盛り込むよう努めなければならない。
(財政上の措置)
第8条 市は、施策及び取組を推進するため、予算の範囲内において財政上の措置を講ずるものとする。
第2章 障がい理解の啓発
(障がい理解に関する施策の実施)
第9条 市は、障がい理解を深めるため、障がい理解に関する研修の実施その他必要な取組を行うものとする。
2 市は、障がいのある人と障がいのない人が交流する機会を確保し、障がいのある人が自ら発信する機会の提供に努めるものとする。
第3章 障がいを理由とする差別の解消
(差別の禁止)
第10条 何人も、障がいのある人に対し、障がいを理由とする差別をしてはならない。
2 市は、障がいのある人及びその家族その他の関係者からの、障がいを理由とする差別に関する相談に応じ、障がいを理由とする差別に関する紛争の防止又は解決を図ることができるよう、人材の育成及び確保のための措置等必要な体制の整備を図るものとする。
3 市は、障がいを理由とする差別を解消するための取組に資するよう、情報の収集、整理及び提供を行うよう努めるものとする。
(障がいのある人の権利擁護)
第11条 市は、障がいのある人の障害福祉サービスの利用に際しては、障がいのある人及びその家族の意思決定が反映されるよう配慮しなければならない。
2 障害福祉サービス提供事業者は、障がいのある人の障害福祉サービスの利用に際しては、障がいのある人及びその家族の意思決定の支援の実施に努めなければならない。
3 市は、障がいのある人及びその家族その他の関係者が意思決定の支援の推進に必要な情報の提供、相談、助言等を行うための体制を整備しなければならない。
(社会的障壁の除去)
第12条 市は、その事務又は事業を行うに当たり、障がいのある人から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、合理的配慮の提供を行わなければならない。
2 事業者は、その事業を行うに当たり、障がいのある人から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、合理的配慮の提供を行わなければならない。
3 市は、障がいのある人が社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明を行うために必要な支援の実施に努めなければならない。
4 市は、前2項の実施に当たり、必要な情報の収集、整理及び提供を行うよう努めるものとする。
(合理的配慮の提供)
第13条 合理的配慮の提供は、障がいのある人が、障がいの有無にかかわらず、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有することを基本として行わなければならない。
第4章 障がいのある人に対する虐待の禁止
(虐待防止に関する啓発)
第14条 市は、関係機関と連携し、障がいのある人に対する虐待の防止に関し、障害福祉サービス提供事業者への啓発及び研修を行うものとする。
(虐待の早期発見)
第15条 市は、関係機関と連携し、障がいのある人に対する虐待の早期発見及び早期対応のための体制を整備しなければならない。
2 市は、障がいのある人に対する虐待を防止するため、都道府県及び関係機関と相互に連携を図りながら、協力しなければならない。
3 市は、障がいのある人及びその家族その他の関係者が障がいのある人に対する虐待を防止するために必要な情報の提供、相談及び助言等を行うための体制を整備しなければならない。
第5章 情報保障及びコミュニケーションに関する合理的配慮
(情報保障及び情報保障に対する理解促進)
第16条 市は、障がいのある人の知る権利及び教育を受ける権利を保障するため、情報保障に必要な取組を行うものとする。
2 市は、障がいのある人が日常生活及び社会生活を円滑に営むことができるよう、情報保障によって確保された機会の利用の促進に努めるものとする。
3 市は、障がいのある人の情報保障の手段が、障がいの種別又は状態等に応じて多様であることに鑑み、市民及び事業者に対し、情報保障の手段についての理解を促進するよう努めなければならない。
(コミュニケーションに関する合理的配慮)
第17条 市は、障がいのある人が情報保障を受けるための体制を整備するとともに、コミュニケーション支援従事者と連携し、コミュニケーション手段の確保及び利用を促進するものとする。
2 市は、障がいのある人が日常生活又は社会生活を営む上で必要となるコミュニケーション手段の利用について、障がいの特性に応じた支援の提供に努めるものとする。
(手話通訳者の確保等)
第18条 市は、聴覚及び音声又は言語機能に障がいのある人が情報保障を受ける体制を確保するため、市に手話通訳者を設置するものとする。
2 市は、市に設置する手話通訳者の心身の健康に配慮し、業務の特性に応じた健康診断を定期的に実施する等の健康の保持及び増進に必要な対策を講じなければならない。
3 市は、聴覚及び音声又は言語機能に障がいのある人が情報保障を受ける体制を確保するため、手話通訳を行う者の養成及び資質の向上を図るものとする。
第6章 生涯にわたる障がいのある人への支援体制の整備
(生涯にわたる障がいのある人への支援体制の整備)
第19条 市は、障がいのある人が生涯にわたり必要な支援を切れ目なく受けることができる体制の整備を行わなければならない。
第7章 補則
(委任)
第20条 この条例に定めるもののほか、この条例の施行に関し必要な事項は、規則で定める。
附則
この条例は、公布の日から施行する。