○日野市子ども条例

平成20年6月26日

条例第30号

目次

前文

第1章 総則(第1条―第10条)

第2章 子どもの権利(第11条―第15条)

第3章 相談・救済(第16条)

第4章 施策の推進(第17条―第19条)

第5章 日野市子ども条例委員会(第20条―第22条)

第6章 雑則(第23条)

付則

いつの時代にも子どもは社会の宝であり、日本の尊い「財産」であり、未来への希望です。すべての子どもはかけがえのない存在として、その尊厳は守らなければなりません。

子どもは、より良い環境の中で育てられ、導かれ、守られます。子どもは、自由、幸福を追求する権利をもっています。子どもは、そのおかれている状況により、差別や不利益を受けることがあってはなりません。国籍、民族、言語などにおいて少数の立場の子ども、障害のある子ども、施設で暮らしている子どもは、特に配慮されます。

子どもたちは、「意見は尊重し、最後まで聞いてほしい」、「自分でできる範囲のことは自分で決めたい」という思いをもっています。自分の権利を知り、権利を認め合うことは大切なことです。

おとなは、子どもの力を信頼し、ともに社会をつくっていきます。

おとなは、子どもが健全にすくすくと育っていくことを望んでいます。そして、おとなは、それが実現できる家庭、地域、環境をつくり、子どもの明るい声が響く社会をつくっていきたいと思っています。また、子どもたちが心豊かな人間性を備え、伸び伸びと育っていくために、おとなは自らを見直し、良き手本となるように努め、子どもを分けへだてなく、ときには厳しく、社会に生きるための心得を示すとともに、すべての子どもに対して、社会で生活するルールを身につけて、主体的に判断できるよう、必要な助言、支援、指導を行っていくことが必要です。

一方で、子どもを取りまく環境は、いじめや児童虐待など、子どもがもつ生きる権利、育つ権利、守り守られる権利、参加する権利が著しく侵害される事例が増え、子どもの健やかな成長への不安は大きくなっています。日野市は、このような子どもをひとりでも減らし、子どもが健やかに成長できる社会環境をすべての市民とともに全力でつくっていこうと考えます。

日野市と市民は、「児童憲章」(昭和26年5月5日制定)と、「児童の権利に関する条約」(平成元年11月20日国際連合総会採択。平成6年条約第2号)の理念に基づき、子どもの生きる権利、育つ権利、守り守られる権利、参加する権利の保障と擁護を進めるとともに、日野市青少年健全育成基本方針(平成16年2月20日制定)の趣旨を活かしつつ、子どもに一番良い結果をもたらすことを考えるまちをつくるため、「日野市子ども条例」を制定します。

第1章 総則

(目的)

第1条 この条例は、日野市(以下「市」といいます。)における子どもの生きる権利、育つ権利、守り守られる権利、参加する権利と子どもが健全に育つための責務に関する基本理念を定め、市と市民が一人ひとりの子どもの権利を尊重し、保障、擁護することで、子どもの幸福の実現を目指し、子どもが健全に育つことができる環境をつくることを目的とします。

(定義)

第2条 この条例において「子ども」とは、市にかかわる18歳未満の人をいいます。ただし、学校教育法(昭和22年法律第26号)、児童福祉法(昭和22年法律第164号)などに規定する施設、その他子どもが育ち、学ぶために利用する施設に在籍などしている18歳以上20歳未満の人も対象とします。

2 この条例において「市民」とは、子どもを含む市にかかわるすべての人をいいます。

3 この条例において「おとな」とは、市民のうち子どもを除くすべての人をいいます。

4 この条例において「子ども施設」とは、学校教育法、児童福祉法などに規定する施設、その他子どもが育ち、学ぶために利用する施設をいいます。

5 この条例において「関係者」とは、事業所、子ども施設、国・都など、子どもにかかわるあらゆる機関と人をいいます。

(基本理念)

第3条 子どもは、ひとりの人間として、人格や個性が尊重されます。

2 子どもは、おとなとともに地域社会を担うひとりの市民として尊重されます。

3 子どもは、家族から温かい愛情が与えられ、家庭の中で心身の健やかな成長が図られ、安らぎが与えられ、社会の基本的なルール、基本的な生活習慣、豊かな情操が育てられます。

4 子どもは、あらゆる暴力や精神的な苦痛、その他不当な扱いなどを受けることなく、人としての尊厳が守られなければなりません。

(市の責務)

第4条 市は、子どもの生きる権利、育つ権利、守り守られる権利、参加する権利を尊重し、関係するあらゆる施策を通してその保障、擁護に努めるとともに、関係者と連携して子どもを健全育成する環境の整備に努めなければなりません。

2 市は、子どもの生きる権利、育つ権利、守り守られる権利、参加する権利の保障、擁護に向けて、市民の理解を深めるため積極的に広報活動に努めなければなりません。

3 市は、おとなが安心して子どもを育てられるよう、必要な支援に努めなければなりません。

4 市は、いじめ、虐待などの権利侵害された子どもを守り、その置かれた状況に応じて必要な保護や支援に努めなければなりません。

(おとなの責務)

第5条 おとなは、その言動が子どもの成育に様々な影響を与えることを認識し、子どもの生きる権利、育つ権利、守り守られる権利、参加する権利の保障、擁護に努めなければなりません。また、子どもの健やかな成長のための環境づくりに努めなければなりません。

2 前項の責務を果たすために、おとなは次に掲げる役割を担うものとします。

(1) 子ども施設などのおとなは、体罰、虐待又は精神的苦痛を与える行為を行わないこと。

(2) 子どもの生きる権利、育つ権利、守り守られる権利、参加する権利について理解を深め、その保障、擁護に努めること。

(3) 子どもがその権利を正しく理解し、実現するよう助言、支援、指導すること。

(4) 子どもの意見をよく聞き、子どもの心をくみ取った上で、子どもにとって最善と考えられることを助言、支援、指導し、励ますこと。

(5) 子どもが社会で生活するルールを身につけ、主体的に判断できるよう、子どもの発達状況や子どもとの関係に応じて、必要な助言、支援、指導、激励に努めること。

(6) すべてのおとなは、人と人のつながる地域をつくりつつ、すべての子どもを見守り、育てるという視点をもち、地域の中で子どもが安心して遊び、学び、休み、育つことができる環境をつくるよう努めること。

(親又は親に代わる保護者の責務)

第6条 親又は親に代わる保護者(以下「親など保護者」といいます。)は、子どもの成長を見守り、子どもを育成することに最も重要な責任があることを自覚するとともに子どもの生きる権利、育つ権利、守り守られる権利、参加する権利の保障、擁護と子どもの健全な育成に努めなければなりません。

2 親など保護者は、前項の責務を果たすために、次に掲げる役割を担うものとします。

(1) 養育している子どもに虐待、養育放棄、精神的苦痛を与える行為などを行わないこと。

(2) 家族のふれあいを通じて、心のかよう温かい家庭をつくること。

(3) 子どもの成長、養育に必要な生活条件を整えること。

(4) 発達状況に応じて、子どもが適切な生活習慣、社会的なルール、思いやりなど豊かな情操を身に付けながら成長することができるように深い愛情と責任をもって助言、支援、指導すること。

(5) 親など保護者の意見や考えを一方的に押し付けるのではなく、子どもの思いをくみ取るよう努めること。

(関係者の責務)

第7条 関係者は、市の施策に協力し、子どもの生きる権利、育つ権利、守り守られる権利、参加する権利を保障、擁護するとともに子どもの健やかな成長を支援するよう努めなければなりません。

(子どもの責務)

第8条 子どもは、自分を大切にするとともに、他の人を大切にし、基本的な社会のルールを守るように努めなければなりません。

2 子どもは、前項の責務を果たすために、次に掲げる役割を担うものとします。

(1) 子どもの生きる権利、育つ権利、守り守られる権利、参加する権利とともに基本的な社会のルールを学び、それらを大切にすること。

(2) 他の人がもつ生きる権利、育つ権利、守り守られる権利、参加する権利を大切にした上で、自分の権利を実現すること。

(3) いじめや差別など他の人を苦しめることを行わないこと。また、いじめや差別などがなくなるよう努めること。

(4) 発達状況に応じて、社会の一員として責任と役割を理解し、果たすよう学ぶこと。

(支援・連携)

第9条 市、おとな、親など保護者、関係者は、子どもの健やかな成長のために子どもを支援、指導し、子どもの生きる権利、育つ権利、守り守られる権利、参加する権利の保障、擁護のために連携します。特に市は、必要な場合において、国、公共団体などに協力を求めていかなければなりません。

(日野市子ども条例の日)

第10条 市は、この条例の目的を推進するため、7月1日を「日野市子ども条例の日」と定め、条例の趣旨にふさわしい事業を市民とともに積極的に行います。

第2章 子どもの権利

(子どもの権利)

第11条 子どもは、「児童憲章」と「児童の権利に関する条約」の理念に基づくすべての権利と生きる権利、育つ権利、守り守られる権利、参加する権利が保障、擁護されます。

2 権利の濫用は許されません。

3 この条例に書かれている権利は、その子どもの生命、健康、内心、名誉にかかわるものを除き、一定の制限を受けることがあります。ただし、その制限は法律や条例、規則などにより定められ、他の人の権利や名誉、公の安全や秩序、健康、社会的道徳を保つことを目的とします。

(生きる権利)

第12条 子どもは、安心して生きることができるために、主に次に掲げる権利があります。

(1) 命が守られ、命が尊重されること。

(2) 愛情を受けること。

(3) きちんとした衣食住が保障されること。

(4) 性格、趣味、好み、生き方などのありのままの自分をわかってもらうこと。

(5) 健康が守られ、安全で、成長にふさわしい環境で生活すること。

(6) 適切な医療が受けられること。

(7) いじめや虐待を受けないこと。

(8) 長時間放置されたり、放任されないこと。

(育つ権利)

第13条 子どもは、健やかに成長するために、主に次に掲げる権利があります。

(1) 社会の一員としての適切な生活習慣や基礎的な社会性を身につけ、自覚と責任をもつよう育てられること。

(2) よい環境の中で人と協調して生きること。

(3) 個性や他の人との違いが大事にされ、自分らしく生きていくこと。

(4) 安心して居られる場所があること。

(5) 学ぶこと、遊ぶこと、休息すること。

(6) さまざまな社会体験、自然体験をすること。

(7) 文化、芸術、スポーツに参加すること。

(8) 伝統や習慣を学び、地域社会の中で育っていくこと。

(9) 自分に関することについて自分の意見を言い表すこと。

(10) 自分の考えや自分に関することを年齢と発達状況に応じて、自分で決めること。

(11) 必要な情報を受けられること。

(12) 必要とするとき、相談、支援、助言を受けられること。

(守り守られる権利)

第14条 子どもは、自分を守り、守られるために、主に次に掲げる権利があります。

(1) いじめ、虐待などの権利侵害から逃げること。

(2) いじめ、虐待などの権利侵害から自分を守るために自分の意見を言うこと。

(3) いじめ、虐待などの権利侵害を受けたとき、保護、支援、救いを求めることができること。

(4) 差別から守られること。

(5) いじめ、虐待、体罰などの暴力から守られること。

(6) 子どもであるという理由で不当な扱いを受けないこと。また、子どもとして年齢に応じた保護を受けられること。

(7) プライバシーが守られること。ただし、親など保護者、子ども施設のおとなが子どもを正しく導くために子どものプライバシーに関与せざるを得ないときには、必要最小限とされ、子どもの尊厳が最大限尊重されること。

(8) 自分に関する情報が不当に利用されないこと。

(9) 薬物乱用、児童買春、児童ポルノ、援助交際、性的虐待、有害情報などから守られること。

(10) 相談、回復、社会復帰は、子どもが安心できる環境の中で行われること。

(参加する権利)

第15条 子どもは、自ら社会に参加するために、主に次に掲げる権利があります。

(1) 自分の意見を表明し、その意見表明が尊重されること。

(2) 自分を表現する自由をもつこと。

(3) 意見や考えは、年齢や発達状況に応じて、その真意をくまれ、適切に配慮されること。

(4) 友人をつくり、友人と集い、社会に参加すること。

(5) 社会に参画するときに、意見が生かされる場や機会が確保され、支援が受けられること。

第3章 相談・救済

(相談・救済)

第16条 市は、子どもの健やかな成長を支援する目的で、子どもが、いじめ、虐待などの権利侵害その他の不利益を受けた場合に、安心して容易に相談や救済を求めることができる体制を整備します。

第4章 施策の推進

(基本施策)

第17条 市は、子どもの生きる権利、育つ権利、守り守られる権利、参加する権利を保障、擁護し、子どもが安心して健やかに成長できるよう、関係者と連携して主に次に掲げる項目について積極的に取り組まなければなりません。

(1) いのちと健康の保障

(2) いじめや虐待を受けた場合に安心して容易に相談や支援を受けることができる体制の充実

(3) 子どもが抱える問題の早期発見、早期対応のための体制の充実

(4) いじめや虐待を受けた子どもの心身のケア、いじめや虐待の加害者への適切な対応のための総合的対策

(5) 家庭や地域における子育ての総合的な支援

(6) 家族のふれあい、心の通う温かい家庭づくりの推進と家庭の教育力の向上支援

(7) 学習と発達の保障

(8) 健全育成環境の保障

(9) 安全で文化的な環境の保障

(10) 子どもの社会参加の場と機会の保障

(11) 情報の提供と啓発

(12) 子どもにかかわる施策や施設の運営に関して子どもの意見を表明する機会や場の確保

(13) 子どもの居場所づくりの推進

(14) 子どもの健全育成を目指した、市民活動への支援、市民活動との連携

(推進計画)

第18条 市は、子どもに関する施策の推進に際し、子どもの生きる権利、育つ権利、守り守られる権利、参加する権利の保障、擁護が総合的・計画的に実施されるように、次に掲げる項目に配慮し、推進計画を策定します。

(1) 子どもに最も良い結果をもたらすものであること。

(2) 一人ひとりの子どもに配慮すること。

(3) 子どもの現状の調査、把握に基づいたものとすること。

(4) 親など保護者、子ども施設にかかわる人、子どもの健全育成にかかわる人、市民の意見を聴くこと。

(5) 推進計画を公表すること。

(推進体制)

第19条 市は、子どもに関する施策を計画的に進めるため、推進体制を整備します。

第5章 日野市子ども条例委員会

(日野市子ども条例委員会)

第20条 市は、この条例の目的を推進するため、公募の市民を含む「日野市子ども条例委員会」(以下「委員会」といいます。)を設置します。

2 委員は、市長が委嘱します。

3 委員会は、次に掲げる10人の委員で組織します。

(1) 公募の市民 5人

(2) 青少年健全育成、福祉、教育などの子どもの権利、健やかな成長にかかわる分野における学識経験者 5人

4 委員の任期は2年とします。再任は1回限り認められます。

5 委員が欠けたときは、補欠の委員を選任し、委員の任期は前任者の残任期間とします。

6 委員は、職務上知り得た秘密をもらしてはいけません。その職務を退いた後も同様とします。

7 前各項に定めるもののほか、委員会の組織、運営に関して必要な事項は、市長が定めます。

(委員会の職務)

第21条 委員会は、市長の諮問による検証、委員会独自の検証を行います。

2 委員会は、市長の諮問を受け、その検証結果を市長に答申します。

3 委員会は、子どもの生きる権利、育つ権利、守り守られる権利、参加する権利の保障、擁護の状況、子どもの健全育成環境の状況について検証を行い、市長に提言します。

4 委員会は、審議にあたり、市民から意見を求めることができます。

(提言、公表)

第22条 市、関係者は、委員会の活動に協力し、市は、その答申、提言を尊重し、必要な対応をとります。

2 市は、答申、提言に基づいた対応について公表します。

第6章 雑則

(委任)

第23条 この条例の施行に関し必要な事項は、市長が規則で定めます。

この条例は、平成20年7月1日から施行します。

日野市子ども条例

平成20年6月26日 条例第30号

(平成20年7月1日施行)