○消防職員不祥事防止のための行動指針
はじめに
職員の不祥事とは、住民からの批判や信頼感を失墜させるような行為を職員が行うということで、重大な消防本部の危機となります。
一つの重大事故の背景には、29の軽微な事故の発生があり、その前には、損失等の発生は伴わないものの、300ものヒヤリとしたミスが存在するという「ハインリッヒの法則」がありますが、これは経験則の一つです。
事故というものは、軽微な事故を防ぐことで発生しないものであり、軽微な事故は、ヒヤリとするような事故を防ぐことで発生しないという考え方です。
職員の不祥事の防止についても、この法則から導き出される経験則を教訓としなければなりません。
危機管理をどんなに十分に実施したとしても、完全に抑止することは不可能です。
しかし、不祥事等の兆候に気付き、早期に対応策を講じることで、発生の確率を低くし、発生しても損失等を少なくすることは可能です。
本行動指針は、職員の基本的意識や、組織として不祥事を起こさない仕組みを明確にするため、策定しました。
本行動指針の活用により、職員一人ひとりが自覚を持って行動し、消防本部への信頼を高める取組を進めて行きましょう。
1 行動指針の基本的な考え方
(1) 不祥事を防止するための視点
不祥事を防止するためには、全ての職員一人ひとりが不祥事を他人ごとではなく自分のこととして捉えて主体的に取り組むとともに、その取組の機運を組織として高めていける組織風土の構築が必要となります。また、この取組を一過性のものとせず、改善しながら継続していくことも必要となります。
このため、今後、不祥事の防止に向け、次の視点をもって取り組んで行くこととします。
(2) 自分のこととして考える
不祥事を許さず高い意識で業務を遂行するためには、一人ひとりが不祥事を他人ごとではなく自分のこととして向き合い、不祥事防止に向けた様々な取組の当事者・担い手であるとの意識を持つことが大切です。
また、不祥事防止のためには、消防本部全体が、組織として取り組む必要がありますが、管理や監視を強化するだけでは職員が萎縮してしまい、良い仕事も良好な人間関係を構築することも難しくなり、組織全体としての改善の機運の高まりは望めないばかりか、不祥事につながる小さな「芽」を摘み取ることも難しくなります。
職員が当事者意識を持って主体的に取り組み、職員一人ひとりの思いを職場がしっかりと受け止め、組織としても「自分たちのこと」として不祥事防止に取組むため、職員間のコミュニケーションを密にすることが大切となります。
(3) 原点に帰る
私たち消防職員にとっての成果とは、市民のためにより良い行政サービスを提供することです。私たちの仕事は大変誇らしくやりがいがあるものですが、市民からの信頼なくして仕事は成り立たず、その信頼が失われれば、不祥事を起こした部署のみならず、消防本部全体が誇りを持つことができなくなります。
また、よりよい仕事をするには家族、友人、上司、同僚などの支えが欠かせませんが、不祥事を起こせば支えてくれた大切な人々を傷つけることになります。
このため、一人ひとりが消防職員であることに誇りを持って市民のために職務を遂行し、充実した日々を送るために、そして大切な人を守るためにも、職員としての原点に帰り、また、定期的に振り返ることが大切です。
(4) 取り組み続ける
どのような素晴らしい取組も、継続していかなければ意味がありません。何かを始める時と同様に、続けていくことにもエネルギーはいりますが、一歩一歩取り組み続けていくことが良い結果を生み出すこととなります。
また、その一方で、漫然と同じことを繰り返すだけでは、慣れが生じ形骸化してしまいます。中には、取り組むこと自体が目的となってしまい、そもそも何のために取り組んでいるのかという本来の目的が曖昧になってしまうことも少なくありません。このため、現状維持で満足せず、それまでの取り組みについて見直しを行い、必要に応じて修正を加えることにより、常により良いものを目指して進化・発展させていくことが大切です。
2 不祥事防止のための心構え
(1) 職員としての心構え
不祥事を防止するためには、職員一人ひとりが、そのための心構えをしっかりと持つ必要があります。
心が変わることで行動が変わり、行動が変わることで組織が変わっていきます。
心構えを正し、自分自身を律することが、不祥事を起こさず、不祥事を起こさせない職場をつくる第一歩になります。
ア 市民のために働いていることを忘れない。
イ 公務員の服務規律を常に意識する。
ウ 不正や誤りを見逃さないように、日常的に問題意識を持つ。
エ 市民の立場で考え応対する。
オ 問題解決のために主体的に行動する。
カ 必ず、誰かがどこかで見ていることを意識する。
キ 真実はいずれ明らかになると考える。
ク 不祥事防止は自分自身のためで心に留める。
(2) 管理職員としての心構え
消防業務における事故等の発生を未然に防止するためには、個々の職員と管理職員とが相互に点検し合い、日頃から所属内の業務環境を整えていくことが必要です。
管理職員は、いつ発生してもおかしくないという当事者意識を持つことによって、不祥事の兆候に気付くことができるようになります。
自らの職場で想定される不祥事について、防止するための対策を講じ、形骸化しないように継続していくことが、不祥事の防止につながります。
ア 不祥事に対する危機感を日常的に持つ。
イ 不祥事の前触れとなる小さな兆候を見逃さない。
ウ 日頃から考えられる不祥事を想定し、対策を講じる。
エ 他の自治体等の不祥事を教訓とする。
オ 業務における慣行等について、根拠等を確認する。
カ 業務の点検や進行管理に十分に留意し、決裁や報告が上がってくる前の段階についてもしっかりと目を配る。
キ トラブルが予見される業務については、必ず複数の職員が関わるような体制で実施する。
ク 風通しの良い職場を作るよう心掛ける。
ケ 上司の意識が部下の意識を左右することを忘れず、率先垂範に努める。
コ あいさつや積極的な声掛けなど、部下職員が相談しやすい雰囲気を作る。
サ 職員一人ひとりとの会話の機会を大切にする。
シ 職員の勤務態度や言動などの変化に気を配る。
(3) 不祥事発生の兆候(気付き)とその対応
不祥事が発生するまでには、様々な兆候、多くの兆候があると言われています。
これらの兆候は、単体ではあまり目立たず、気付かなかったり、あるいは気付いていても「まさか不祥事はないだろう」と楽観視したりすることも多いのが事実です。
しかし、こうした小さな兆候が積み重なって、大事を招くこととなります。
職場、同僚・部下・上司の行動や言動の変化に気を配り、不祥事の前に発生している小さな兆候に気付き、対応することが、不祥事の防止につながることとなります。
3 服務規律の遵守と自己点検
(1) 服務規律
地方公務員法では、公務員として守らなければならない事項が規定されています。常日頃から服務規律に留意し、職場内外を問わず、言動等には十分に注意しなければなりません。
【服務の根本基準(第30条)】
すべて職員は、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し、かつ、職務の遂行に当っては、全力を挙げてこれに専念しなければならない。
【法令等及び上司の職務上の命令に従う義務(第32条)】
職員は、その職務を遂行するに当って、法令、条例、地方公共団体の規則及び地方公共団体の機関の定める規程に従い、かつ、上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない。
【信用失墜行為の禁止(第33条)】
職員は、その職の信用を傷つけ、又は職員の職全体の不名誉となるような行為をしてはならない。
【秘密を守る義務(第34条)】
職員は、職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後もまた、同様とする。
【職務に専念する義務(第35条)】
職員は、法律又は条例に特別の定がある場合を除く外、その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用い、当該地方公共団体がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならない。
【政治的行為の制限(第36条)】
職員は政党その他の政治的団体の結成に関与し、若しくはこれらの団体の役員となってはならず、又はこれらの団体の構成員となるように、若しくはならないように勧誘運動をしてはならない。
(2) 自己点検
不祥事を防止するために、また、自分が不祥事の当事者とならないために、自分の意識や行動を日常的に点検することが大切です。
別紙の「不祥事防止の自己チェックシート」は、職員一人ひとりが定期的に公務員倫理等に関する意識醸成度とマナー遵守度を自己チェックすることにより、日頃から不祥事を防止し、服務規律の遵守と綱紀粛正の徹底に努めることを目的としています。
4 不祥事防止のための重点行動
不祥事防止のため、次のことについて、職場全体で重点的に取り組むべき行動として、各職場において積極的に実施することが大切です。
(1) 職場内研修の実施
所属長を中心とした不祥事防止のための職場内研修・啓発等を、定期的に実施することによって、職場内の問題を点検すると共に、不祥事に対する危機意識の共有に努める。
<研修・啓発内容の参考例>
職場の問題・課題、改善が必要な事項、不祥事の兆候、職場におけるマナー等の状況を確認する。
(2) コミュニケーションの推進
職場での声掛けによる職員の孤立を防止することや定期的な職場内ミーティングを行うことで問題点の発見に努める。
ア 課内会議、係内会議等を定期的に実施する。
イ 円滑なコミュニケーションの推進を図るため、職場内の行事の実施についても配慮する。
(3) 公金外現金等の取扱方法の徹底
現金等の取扱いについては、一つ一つの手続に手を抜かず、確実に実施することが重要です。次の取扱いを徹底するとともに、形骸化しないよう十分留意しなければなりません。
ア 公金外の現金等は原則として取扱わない。ただし、やむを得ない場合で、次の要件を満たすときに限り、取扱うことができるものとする。
(ア) 公共性があり、消防本部の事務と密接な関係があること。
(イ) 外部団体の事務局体制が極めて不十分であるなど、消防本部が取扱うことに合理的な理由があること。
イ 外部団体の自主運営能力の育成などによって、外部団体への会計事務の返還を図るなど、見直しに努める。
ウ 公金に準じて厳正な取扱いをする。
エ 取扱事務については次の点に留意する。
(ア) 現金は団体の預金口座で管理することとし、預金通帳と通帳印は別々に鍵のかかる場所に保管する。
(イ) 副担当者を置くなどして複数で事務を処理することとし、2次チェックを確実に行う。
(ウ) 定期的に担当事務のローテーションを行う。
(エ) 管理職員は、日常点検、月次点検等を必ず実施する。
オ 会計処理については受払いの状況を明らかにするための現金出納簿を備える。
5 不祥事発生時の対応
不祥事が発生した場合には、次のような対応を基本とし、誤解や不信を招かぬよう適切な対応を心掛けることが必要となります。
(1) 初期対応
ア 第一報
不祥事を発見した職員→第一報(上司・所属長)
イ 情報の継続収集、応急処置等
状況の把握、事実確認→情報整理→継続して報告
※ 第一報後も情報を収集し、その都度続報として報告すること。
(2) 第一報を受けての対応
消防長への報告
まずは迅速に電話や口頭で把握していることを報告し、その後も収集した情報の事実関係等を確認しながら、随時報告する。
※ 報告すべき事項
・何が起こったか(不祥事の概要)
・いつ、どこで起こったか(発生日時と場所)
・誰が関係しているか(当事者、関係者)
・どうなったか(被害状況)
・これまで、どう対応したか(応急対応の状況)
・今後、どうなりそうか(事態の進展、被害の拡大予測)
(3) 原因究明、再発防止策の検討・実施
できるだけ早く原因や事実関係を調査し、原因が明らかになった時点で、再発防止のための対策を検討し、実施する。
6 相談、通報、報告
不祥事を発見又は発生した場合には、各種マニュアル等の規定により上司等へ報告することとなりますが、不祥事が上司に関係するなど、上司への報告が不適当である場合には、別の方法により通報する必要があります。
(1) 全般の相談窓口・受付者
相談窓口・・・消防総務課長
通報の方法・・・口頭、書面等により通報
※ 消防本部事務室設置の意見箱を活用することも可能です。
(2) ハラスメント関連の相談窓口
相談窓口・・・①消防総務課長
②企画部人事課
平成29年11月13日付け消防総務課長通知「ハラスメント等に関する通報及び相談窓口等について」
(3) 上司への報告が不適当である場合の通報窓口
通報処理担当・・・企画部人事課
※ 消防本部職員に相談や報告することが不適当な場合の対応となります。
※ できる限り具体的な事実を伝えてください。
※ 通報者の保護を図るため、プライバシーについて、配慮がなされます。
7 不祥事の代償と影響
不祥事を起こすと当事者だけの問題に留まりません。家庭や職場の上司・同僚など、周囲の人へも多大な影響を及ぼします。
職員本人が負う責任 | 犯罪を起こした職員は、様々な責任を負うことになります。 | |
刑事上の責任 | 刑罰(懲役、罰金等) ※ 禁錮以上の刑が確定した場合、職員としての身分を失い、退職手当の支給が制限されます。 | |
民事上の責任 | 被害者への損害賠償等 | |
服務上の責任 | 懲戒処分 | |
消防本部全体の信用失墜 | 一生懸命真面目に勤務している多くの職員が非難の目で見られ、つらい思いをします。また、業務にも支障が生じ、市民への対応等、職員に多くの負担がかかります。 | |
上司の監督責任 | 管理監督者責任として、懲戒処分を受ける場合があります。 | |
同僚への影響 | マスコミの報道等により、精神的な苦痛を受けます。 | |
家族への影響 | マスコミの報道等により、精神的な苦痛を受けます。また、失職や懲戒免職の場合、職員の身分を失い、退職手当の支給が制限されるため、その後の家族の生活に大きな影響を与えます。 |
8 おわりに
この行動指針は、不祥事の未然防止の徹底を進めるため、策定したものです。
しかし、行動指針に掲げた内容を行えば不祥事が根絶されるというものではありません。不祥事の防止は、行動指針に掲げた内容にとどまらず、職員一人ひとりと職場全体が不祥事を許さない高い意識を持つことが大切です。
市民からの期待に応え、信頼される職場を維持するために、職員として求められる服務規律等を守り、消防本部として期待される役割をしっかりと果たしていかなければなりません。