○珠洲市生物文化多様性基本条例
平成31年3月22日
条例第6号
日本海に突き出た能登半島の最先端に位置する本市には、先人たちが日々の生活を営みながら育んできた豊かな里山里海があり、世界農業遺産に認定される等、国際的にも高い評価を受けている。こうした里山里海をはじめとする本市の環境には多様な生物が生息し、相互に関係しながら多様な生態系を形成しており、農林水産業等の生業や人々の暮らしに大きな恩恵をもたらしてきた。
しかし、本市における人口の減少と高齢化が進む中で、管理の行き届かない山林や農地、ため池が増加する等、里山里海の本来の機能が十分に発揮されない状況が拡大し、生態系や生物種の多様性並びに地域に根ざした生業や文化の多様性が脅かされつつある。
私たちは今、豊かな恵みをもたらしてくれる里山里海の環境と、そこに生息する多様な生物が人々の文化的な営みとともに共生する「生物文化多様性」を市民共有の財産とし、今後も持続可能なかたちで未来の世代に引き継いでいくため、この条例を制定する。
(目的)
第1条 この条例は、本市における生物文化多様性の保全と持続可能な利用について、各主体の責務を定めるとともに、多様な主体の連携による取組を実践するために必要な事項を定め、もって自然と共生する持続可能なまちづくりを進めることを目的とする。
(定義)
第2条 この条例において「生物文化多様性」とは、里山里海をはじめとする豊かな生態系に多様な生物が生息している「生物多様性」と、それぞれの生態系に支えられ地域に根ざした多様な生業や文化が営まれている「文化多様性」が、相互に関わり合いながら共存していることをいう。
2 この条例において「生態系」とは、ある一定区域に生息又は生育する野生生物の相互作用及び生物とそれらを取り巻く環境との相互作用によって形成される総体のことをいう。
3 この条例において「希少野生生物」とは、市内に生息し、又は生育する野生生物の種(亜種又は変種がある種にあっては、その亜種又は変種とする。以下同じ。)又は地域個体群(地域的に孤立した個体群をいう。)であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。
(1) その存続に支障を来す程度にその個体の数が少ないもの
(2) その個体の数が減少しつつあるもの
(3) その個体の生息地又は生育地が消滅しつつあるもの
(4) その個体の生息又は生育の環境が悪化しつつあるもの
(5) 前各号に掲げるもののほか、その存続に支障を来す事情のあるもの
4 この条例において「外来生物」とは、国の内外を問わず、野生生物が本来持つ移動能力を超えて人為的に、過去又は現在の自然分布域以外の地域に導入された種をいう。
(市の責務)
第3条 市は、野生生物の生息又は生育状況及び生物文化多様性に影響を及ぼす状況の把握に努めるとともに、生物文化多様性の保全及び持続可能な利用に関する基本的かつ総合的な方針と施策を定め、実施するものとする。
2 市は、必要な体制を整えるとともに、市民や事業者、各種団体等多様な主体と連携し、国や県その他の関係機関と協力することで、前項の施策を実施するものとする。
3 市は、生物文化多様性の役割と重要性について、市民、事業者、各種団体、来訪者等、全ての関係者が価値を認識するとともに理解を深めるために、普及啓発や学習機会の提供等適切な措置を講ずるものとする。
(市民の責務)
第4条 市民は、生物文化多様性の重要性を認識し、生物文化多様性の保全及び持続可能な利用に寄与するよう努めるとともに、市が実施する生物文化多様性の保全及び持続可能な利用に関する施策に協力するよう努めるものとする。
(事業者の責務)
第5条 事業者は、生物文化多様性の重要性を認識した上で、その事業活動を行うに当たり、生物文化多様性の保全及び持続可能な利用に配慮するとともに、市が実施する生物文化多様性の保全及び持続可能な利用に関する施策に協力するよう努めるものとする。
(計画の策定)
第6条 市は、本条例の目的にのっとり、生物文化多様性の保全及び持続可能な利用を推進するための計画を策定するものとする。
2 前項の規定による計画を作成し、実施状況の定期的な確認や情報共有、点検と見直しを進めるために、協議会等の運営組織を設置するものとする。
(生態系の保全)
第7条 市、市民及び事業者は、多様な生物が生息又は生育し豊かな恵みをもたらす貴重な環境として、森林、河川、農地、池沼及び海岸等、本市に存在する多様な生態系の保全及び創造に努めなければならない。
(希少野生生物への配慮)
第8条 何人も、希少野生生物が生息又は生育する区域において活動を行う際は、その活動が希少野生生物の存続に支障を及ぼさないように十分配慮しなければならない。
(外来生物への対策)
第9条 何人も、市内における地域の在来種を圧迫し、生態系に著しく悪影響を及ぼすおそれのある外来生物を放ち、又は植栽し、若しくはその種子をまいてはならない。
2 何人も、市内の生態系及び生物文化多様性に悪影響を及ぼす外来生物の拡大を防ぐよう努めなければならない。
(土地の開発等における配慮)
第10条 市、市民及び事業者は、土地の開発及び整備等を行うに当たっては、あらかじめその土地を含む周辺の地域における野生生物の生息等の状況を把握し、希少野生生物の保護に十分配慮しなければならない。
(生息地等保全協定の締結等)
第11条 市長は、希少野生生物の保護のため必要があると認めるときは、その生息地及びこれらと一体的に保全を図る必要がある区域の土地の所有者及び関係者(以下「土地の関係者」という。)と当該区域の土地の保全に関する協定(以下「生息地等保全協定」という。)を締結することができる。
2 生息地等保全協定は、次に掲げる事項を定めるものとする。
(1) 保護の対象となる希少野生生物及びその保護の方法
(2) 保全の対象となる区域及びその土地の保全の方法
(3) 市が行う当該希少野生生物の保護及び当該土地の保全に係る支援に関する事項
(4) 前3号に掲げるもののほか、市長が土地の関係者と協議の上、必要と認める事項
3 生息地等保全協定を締結した土地の関係者は、生息地等保全協定で定める事項を遵守しなければならない。
4 市長は、当該土地の関係者に対し、必要な助言、指導又は情報提供をするものとする。
5 市長は、希少野生生物の保護のため必要があると認めるときは、生息地等保全協定を締結した区域において、希少野生生物の保護に支障を及ぼすおそれのある行為をする者に対し、その行為の実施方法に関し必要な助言又は指導をすることができる。
(財産権の尊重等)
第12条 この条例の適用にあたっては、関係者の所有権その他の財産権を尊重し、市民の生活の安定及び福祉の維持向上に配慮しなければならない。
(調査、研究の推進)
第13条 市は、生物文化多様性の保全と持続可能な利用に関する施策を策定し、推進するため、野生生物の個体の生息又は生育の状況、その生息地又は生育地の状況、自然と共生する伝統的な知識及び技術、生物文化資源の持続可能な利用による新たな価値の創造その他必要な事項について、市民、事業者、民間団体及び関係機関等の協力を得て、調査及び研究を推進するものとする。
(情報共有体制の整備)
第14条 市は、生物文化多様性の保全と持続可能な利用を図るため、個人及び法人の権利利益の保護への配慮と、情報を提供することにより生ずる生物文化多様性への影響を考慮しつつ、前条による調査及び研究の成果その他生物文化多様性に関する情報を適切に提供する体制を整備するものとする。
(広報、啓発)
第15条 市は、市民及び事業者の生物文化多様性の保全及び持続可能な利用について理解と関心を深めるため、広報、啓発その他必要な措置を講ずるものとする。
(教育、学習機会の充実等)
第16条 市は、民間団体及び関係機関等と連携し、生物文化多様性の保全及び持続可能な利用の重要性に対する市民及び事業者等の理解を深めるため、生物文化多様性に関する教育及び学習の機会の充実、自然体験活動の推進、自然と共生する伝統的な知識及び技術の啓発、生物文化資源の持続可能な利用による新たな価値の創造への支援その他の必要な措置を講ずるものとする。
(人材の確保、育成)
第17条 市は、生物文化多様性の保全と持続可能な利用に関する活動を実践又は推進する人材の確保及び育成を図るため、民間団体及び関係機関と連携し、支援体制の整備、研修その他必要な措置を講ずるものとする。
(市民活動への支援)
第18条 市は、市民、事業者及び民間団体等が自発的に行う生物文化多様性の保全に関する活動について、相談に応じるとともに助言やその他の必要な支援を行うものとする。
(専任部署の設置)
第19条 市は、生物文化多様性の保全と持続可能な利用に関する施策の実施及び推進を、市民、事業所及び各種団体等と連携し円滑に行うため、市役所内に専任部署を設けるものとする。
2 市は、生物文化多様性の保全と持続可能な利用に関する調査、啓発及び助言等を行うため、生物文化多様性の保全及び持続可能な利用に関する専門知識を持つ専任職員を置くものとする。
(国、県及び他の地方公共団体との連携)
第20条 市は、市の区域を越えて移動を行う希少野生生物の保護その他の広域的な取組が必要とされる生物文化多様性の保全と利用に関する施策の策定及び実施に当たっては、国、石川県及び他の地方公共団体と連携し、その推進に努めるものとする。
2 市は、国際的な取組が必要とされる生物文化多様性の保全と持続可能な利用に関し、国、石川県、他の地方公共団体及び関係機関と連携し、国際協力の推進に努めるものとする。
(委任)
第21条 この条例の施行に関し必要な事項は、規則で定める。
附則
この条例は、公布の日から施行する。