○鳥取県孤独・孤立を防ぐ温もりのある支え愛社会づくり推進条例
令和4年12月26日
鳥取県条例第28号
鳥取県孤独・孤立を防ぐ温もりのある支え愛社会づくり推進条例をここに公布する。
鳥取県孤独・孤立を防ぐ温もりのある支え愛社会づくり推進条例
豊かな自然と歴史的に育まれてきた地域の人々の絆に恵まれた鳥取県では、地域の住民が互いに支え合う温もりのある社会づくりが進められてきた。
しかし、近年、核家族化の進行、都市化の進展、社会の高度化・複雑化等により家庭を取り巻く環境は大きく変化し、家庭内における過重な介護等の負担により学習や就業に支障を来しているヤングケアラーといわれる若者、子育てにおける孤立感等が原因となる産後鬱を発症する者、高齢者が高齢者を介護する老老介護や高齢の親が中高年のひきこもり状態にある子を支える8050問題といわれる身体的又は精神的負担を負う者等が、本人が望まない孤独を感じ、又は孤立していることが、大きな課題として認識されるようになった。
これらの課題は、本人や家庭内だけで解決することは容易ではなく、周囲の理解を深め、協力を得ながら、共に支え合い生きる「支え愛」の理念の下、個々の県民生活の実情に即したきめ細やかな対策が必要となっている。
県、市町村、県民、事業者、関係団体等及び民間支援団体が一体となって、全ての県民が望まない孤独を感じ、又は孤立することを防ぎ、人々の絆を活かし、援助を必要とする者の存在に気づき、必要な支援を行う誰一人取り残さない社会づくりを推進することで、全ての県民がふるさと鳥取で安心して暮らし続けることができるよう、この条例を制定する。
(目的)
第1条 この条例は、援助を行う者、援助を受ける者及びその他の家族の支援に関し、県及び市町村の責務並びに県民、事業者及び関係団体等の役割を明らかにするとともに、相互の連携と協力により、その支援に関する施策に取り組むために必要な事項を定め、援助を行う者及び援助を受ける者の孤独・孤立を防ぎ、全ての県民が地域社会の中で互いに支え合う温もりのある社会づくりの推進に資することを目的とする。
(1) 家庭内援助 高齢、障がい、ひきこもりその他の事由により援助を必要とする者に対して、その家族等(同居又は別居を問わず、父母、祖父母、配偶者、子、孫、兄弟姉妹その他の親族又はその他これらに準ずる者をいう。以下同じ。)が無償で行う介護、看護、日常生活上の世話その他の援助をいう。
(2) 特定援助者 家庭内援助を行う者をいう。
(3) 被援助者 家庭内援助その他の身体的又は精神的援助を受ける者をいう。
(4) 特定援助者等 特定援助者、被援助者及びその他の家族等をいう。
(5) 特定援助者等支援 特定援助者等に生じる身体的又は精神的負担を軽減させるとともに、孤独・孤立の問題に対応するため、行政若しくは民間が、又は行政と民間との協働により行う支援をいう。
(6) 関係団体等 福祉、医療、保健、就労、教育その他これらに類する分野の業務を行い、その業務を通じて、日常的に特定援助者等支援に関わる可能性がある団体又は個人をいう。
(7) 民間支援団体 特定援助者等支援を行うことをその設置目的の一つとする民間の団体をいう。
(基本理念)
第3条 特定援助者等支援は、全ての特定援助者等が個人として尊重され、健康で文化的な生活を営み、自己実現や社会参加をすることができるように行われなければならない。
2 特定援助者等支援は、県、市町村、県民、事業者、関係団体等、民間支援団体等の多様な主体が相互に連携を図りながら、特定援助者等との信頼関係を構築しつつ、特定援助者等が孤独を感じ、又は孤立することのないように共に支え合い生きる支え愛の理念の下で行われなければならない。
3 特定援助者等支援においては、全ての特定援助者等が、適切な教育及び就労の機会並びにその他必要なサービスの提供を受ける機会が確保されるように十分配慮されなければならない。
(県の責務)
第4条 県は、前条に定める基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、特定援助者等支援に関する施策を実施するとともに、市町村、事業者、関係団体等及び民間支援団体との有機的連携を図る責務を有する。
2 県は、市町村、県民、事業者、関係団体等及び民間支援団体による特定援助者等支援の一層の促進のために情報の提供、助言その他の必要な支援を行うものとする。
(市町村の責務)
第5条 市町村は、基本理念にのっとり、児童福祉法(昭和22年法律第164号)、社会福祉法(昭和26年法律第45号)、介護保険法(平成9年法律第123号)、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成17年法律第123号)その他の法律に基づくサービス(以下「法令等サービス」という。)の提供及び特定援助者等支援に関する施策の実施に取り組むとともに、包括的な相談支援体制の整備、特定援助者等の社会参加のために必要な支援及び住民相互の交流促進を通じた互いに支え合う地域づくりの推進に主体的に取り組むよう努めるものとする。
2 市町村は、法令等サービスによっては十分な援助を受けることができないと考えられる特定援助者等又は必要な援助を受けることができていない特定援助者等に対して、制度の創設、地域の社会資源の活用その他の方法によって、支援するよう努めるものとする。
(県民の役割)
第6条 県民は、基本理念にのっとり、あらゆる機会を通じて、特定援助者等についての理解と関心を深めるとともに、見守り及び声かけその他の特定援助者等支援に努めるものとする。
(事業者の役割)
第7条 事業者は、基本理念にのっとり、特定援助者等支援の必要性についての理解を深め、その事業活動を行うに当たっては、県及び市町村が実施する特定援助者等支援に関する施策の推進に協力するよう努めるものとする。
2 事業者は、その雇用し、又は雇用しようとする者が特定援助者である可能性があることを認識し、その就労と家庭内援助との両立ができるよう配慮に努めるものとする。
(関係団体等の役割)
第8条 関係団体等は、基本理念にのっとり、県及び市町村が実施する特定援助者等支援に関する施策に積極的に協力するよう努めるものとする。
2 関係団体等は、その業務を通じて日常的に特定援助者に関わる可能性があることを認識し、特定援助者を認知したときは、その意思を尊重しつつ、その家庭内援助の現状並びに特定援助者等の健康状態及び生活状況を確認し、特定援助者等支援の必要性の有無、特定援助者の家族等に他に家庭内援助を必要とする者がいないか把握に努めるものとする。
3 関係団体等は、特定援助者等支援が必要と考えられる者に対し、特定援助者等支援を行う機関の紹介その他の情報提供その他の必要な支援を行うよう努めるものとする。
4 教育に関する業務を行う関係団体等は、日常的に児童、生徒、学生その他の教育を受ける者と接する機会を活用し、特定援助者を認知したときは、その意思を尊重しつつ、教育の機会の確保の状況、その家庭内援助の状況並びに特定援助者等の健康状態及び生活状況を確認し、特定援助者等支援の必要性について早期の把握に努めるとともに、早期の支援につながるよう必要な措置を講ずるよう努めるものとする。
(個人情報の活用と保護)
第9条 県、市町村、関係団体等及び民間支援団体は、特定援助者等支援の実施に当たっては、必要に応じてその保有する個人情報を共有するよう努めるものとする。
2 前項の規定による個人情報の共有は、個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)その他の法律の規定に基づき、又は本人の同意を得て行うものとする。
3 第1項の規定により共有する個人情報の内容及び共有する者の範囲は、必要な最小限のものとしなければならない。
(特定援助者等支援に関する施策の推進)
第10条 県は、市町村と連携協力して、別表に掲げる施策その他の特定援助者等支援のために必要となる施策を推進するものとする。
(人材の育成等)
第11条 県は、特定援助者等支援が適切に行われるよう、相談対応、助言、日常生活及び社会生活の支援その他の特定援助者等支援又はそれらの支援の調整を担う人材の育成及び確保に必要な施策を講ずるものとする。
(普及啓発)
第12条 県は、特定援助者等支援の重要性について県民の理解と関心を深めるため、家庭、学校、職域、地域その他の様々な場を通じて、研修の充実その他の方策により、必要な普及啓発活動を行うものとする。
(財政上の措置)
第13条 県は、特定援助者等支援に関する施策を推進するため、必要な財政上の措置を講ずるよう努めるものとする。
(孤独・孤立を防ぐ温もりのある支え愛社会づくり審議会)
第14条 県は、県が単独で、又は市町村、県民、事業者、関係団体等、民間支援団体等と協働して行う特定援助者等支援に関する施策の総合的かつ計画的な推進のため必要な事項を調査審議し、及びその施策の実施状況を検証するため、孤独・孤立を防ぐ温もりのある支え愛社会づくり審議会(以下「審議会」という。)を設置する。
2 審議会は、委員20人以内で組織する。
3 委員は、特定援助者等、特定援助者等支援を行う団体に属する者、特定援助者等支援について知見を有する者その他知事が適当と認める者から知事が任命するものとする。この場合において、委員のうち2人以上は、県内において特定援助者等支援を現に行っている者とする。
4 委員は、引き続いて1年以上、国、県又は市町村の職員又は職員であった者が半数を超えてはならない。
5 委員の任期は、2年とする。ただし、補欠又は増員により任命された委員の任期は、前任者又は現任者の残任期間とする。
6 委員は、再任されることができる。
7 前各項に定めるもののほか、審議会の組織及び運営に関し必要な事項は、審議会が定める。
附則
(施行期日)
1 この条例は、令和5年1月1日から施行する。
(鳥取県附属機関条例の一部改正)
2 鳥取県附属機関条例(平成25年鳥取県条例第53号)の一部を次のように改正する。
〔次のよう〕略
別表(第10条関係)
区分 | 施策の主な内容 |
特定援助者等に対する一般的施策 | 1 特定援助者等、関係団体等、民間支援団体、県民等の幅広いネットワークの充実及び連携を推進すること。 2 既存の法令等サービスによっては十分な援助を受けることができていないと考えられる特定援助者等を、制度の創設、地域の社会資源の活用その他の方法によって支援すること。 3 特定援助者等に対するアウトリーチも含めた相談体制の整備又は充実を図ること。この場合において、相談対応に際しては、利便性に配慮するとともに、必要に応じてソーシャルネットワーキングサービスその他の情報通信技術を活用すること。 4 ピアサポートの推進や自助グループの育成を図ること。 5 支援に関する制度その他の社会規範の情報を必要とする者に届くよう適切に情報提供を行うこと。 6 特定援助者等に対する包括的な支援を行うこと。 7 特定援助者等が支援を求める旨の意思表示をしやすい環境を整備すること。 8 特定援助者の家庭又は学校以外の居場所の確保及び社会参加に向けた支援を行うこと。 |
ヤングケアラーをはじめとする特定援助者を支援する施策 | 1 特定援助者が休息若しくは休養を要する場合又は家庭内援助を行うことが特定援助者にとって不利益となる場合に一時的に特定援助者に代わって家庭内援助を提供する取組その他の負担軽減につながる必要な支援を行うこと。 2 特定援助者等のみならず広く県民が家庭内援助に関する理解を深めるために必要な情報の提供、研修の実施その他の普及啓発活動を行うこと。 3 特定援助者の修学又は就業に関する支援を行うこと。 4 育児又は介護と仕事との両立を容易にするために事業者が特定援助者に対して行う取組を支援すること。 5 関係団体等に属する者を対象とした、特定援助者を早期に認知するための研修及び県民への普及広報活動を行うこと。 |
障がい者、高齢者等の被援助者を支援する施策 | 1 被援助者がその希望に応じて地域での生活を営むことができるよう、福祉サービス、生活訓練、就労支援その他のサービスの充実を図ること。 2 1に掲げるサービスの提供を受けることができる機会の確保及び充実を図るため、必要な施設の整備を推進すること。 3 特定援助者の高齢化その他の事情により援助が困難となった場合においても、被援助者の希望に応じて地域での生活を続けられるよう支援すること。 4 被援助者が、その人格と個性を尊重され、その特性に応じた必要な配慮や支援を受けながら、地域社会の中で自分らしく安心して生活することができる社会の実現のため、あいサポート運動、認知症サポーターの養成・支援その他の活動を推進すること。 |
注 この表において、次に掲げる用語の意義は、それぞれ次に定めるとおりとする。
1 アウトリーチとは、必要とする支援が届いていない者に対して、積極的に働きかけて、必要な支援を受けさせ、又は支援を受けるための情報を提供する手法をいう。
2 ソーシャルネットワーキングサービスとは、登録された利用者同士が交流できるウェブサイト上の会員制サービスのことをいう。
3 ピアサポートとは、同じような立場や課題に直面する者が互いに支え合うことをいう。
4 自助グループとは、同じ問題を抱える者が集まり、相互理解や相互支援を行う集団をいう。
5 ヤングケアラーとは、家族に介護その他のケアを要する人がいる場合に、大人と同様、家事や家族の世話、介護、感情面のサポート等を行っている18歳未満の子どもをいう。
6 あいサポート運動とは、県民が多様な障がいの特性の理解に努め、障がいのある者に温かく接するとともに、障がいのある者が困っているときにちょっとした手助けを行うことにより共生社会を目指す運動をいう。
7 認知症サポーターとは、認知症に対する正しい知識と理解を持ち、地域で認知症の患者やその家族に対してできる範囲で手助けする者をいう。